福岡、中洲の歓楽街。かやのは、ストリッパーである母親カトリーヌとの葛藤から家を飛び出し、街をさまよっていた。仕事も、住む家もなく、友達もいないかやのにとって、音楽を聴いているときだけが、唯一の幸せな時間だった。子どもの頃一度だけ、人前で歌ったときの心の震えを、かやのは忘れられなかった。いつかあのときのように歌うことができたら…。かやのの密かな夢はある日、現実になる。ヴォーカリスト“ジーナ・K”として、かつて母親カトリーヌが立っていたステージで歌いはじめたかやの。同じステージに立って初めて、自分と母親に同じ “血”が 流れていることを痛感する。母親を越えたい。その思いがかやのを強くする。二度と這い上がれないほど深い穴の中に突き落とされても、かやのは歌うのをやめない。憎しみや悲しみが溶けてなくなるまで、かやのは歌う。すべてを受け入れ、愛するために。絶望の中から何度でも立ち上がるかやののひたむきな姿は、私たちの心に熱い感動を巻き起こす。どんなことがあっても、信じるものがある限り、人はまた立ち上がり、歩きだすことができる。監督・脚本は藤江儀全。本作はこれまで石井聰亙、東陽一、橋口亮輔監督などを助監督として長年支えてきた藤江の、待望のデビュー作である。藤江は故郷である福岡・中洲を舞台に、凛々しく生きたひとりの少女の命の煌めきと、彼女を取り巻く人間模様を、生き生きと描き出した。“自分の生き方に確信などなく、未来への展望が見えなくても「今」を生きていくこと、なんとか生きてやろうとすること。生きにくかったり、自分には何の価値もないと思い込んだり…そんな人に生きるエネルギーを最大限に送りたい”…そんな藤江の熱い想いが、画面のはしばしから伝わってくる。女優初挑戦とは思えないほどの熱演で、かやの=ジーナ・K役をつとめたのはシンガー・ソングライターとして活躍するSHUUBI。迫力のライブシーンと、ステージを降りたかやのの、揺れる想い。そのどちらをも、ここまでリアルに表現できるのは、彼女の他にはいなかっただろう。ジーナの母親で、ストリッパーのカトリーヌ役には、映画・舞台などで幅広い活動を続けるベテラン石田えり。母娘の複雑な愛憎を体当たりの演技で見事に演じ切った。ほかにARATA、光石研、永瀬正敏、片岡礼子など数々の日本映画で活躍する個性派俳優陣に加え、オーディションで選ばれた福岡出身の新人・吉居亜希子、さらに映画監督の石井聰亙がドキュメンタリー作家役で出演するなど、ユニークなキャスティングにも注目が集まる。また、SHUUBIは本作で映画音楽のプロデュースも手がけている。彼女が藤江監督とディスカッションを重ねて作り上げたエンディングテーマ『ハジマリノウタ』は、聴くものすべての心を震わせ、明日に向かって歩き出す勇気を与えてくれる。