「スターリン重態」の号外の鈴が雨の巷になっている日、日産新報の若い外信部員木垣は、A・O通信記者ハワード・ハントを出迎えに羽田に車をとばした。その羽田で木垣は乗客名簿を本社に電話連絡したが、その中にオーストアはの男爵ティルピッツの名をみいだして外信部副部長原口には愕然とした。ティルピッツこそかつて彼が上海で苦杯を喰まされた動乱利権屋なのだ。原口の妻京子は夫の収入にあきたらず種々サイド・ワークに狂奔しているが、ティルピッツの出現を知ると、彼に近づき巨額の米ドルを受取る。原口を通して右翼の情報を提供するという条件つきである。原口と紙幣をはさんで衝突した京子は、日毎自堕落な生活に浸るようになる。スターリンの死が発表された。ティルピッツは日産新報の赤色分子立川に資金を提供し、ひそかに左右の激突をはかる。事件、そして動乱がおこれば、金がもうかる。彼の常套手段である。立川の妹文江はティルピッツのメイドを勤めているが、やがて主人の正体を知って原口につげた。一方文江を愛する木垣も事情をしり、尊敬する上役原口を一味と誤解して絶望にしずむ。家を出奔した京子は、その夜ルーレット場で狩込みの警官に射殺された。