南国土佐のある幼稚園。腕白坊や奥村太郎には母ははや亡く、祖父、祖母とともに多人数の叔父の家にすんでいた。だが、太郎にはそんな孤独の心を慰めてくれる宝物があった。それはいまは出稼ぎに出ている父と旅した大阪の楽しい思い出が秘められた奇妙なスケッチ・ブックであった。ある日、園児の一人健一が万博土産をみせびらかし、クラスの人気を独占した。それは、太郎の胸に、父への思慕をつのらせ、大阪行きを決心させた。五才の子供の一大冒険が始まった。何回かの脱出失敗を重ねたあげく、太郎はついに脱出に成功した。スケッチ・ブックの奇妙な絵は太郎だけの道しるべになっていた。それは父と行った大阪への道々が小さい心に強烈な印象として焼ついていたのだ。そのころ、太郎の失踪を知った奥村家は大騒動、おじいちゃんとおばあちゃんが太郎の後を追った。一方、太郎はトラックの荷台によじのぼったり、団体バスにまぎれ込んだり、保線用のトロッコに乗せてもらったり、空腹と闘いながらなんとか高松に着いた。道しるべの絵には波浪注意報の旗が描いてあった。それが大阪行きの印と思いこんでいる太郎は、晴天つづきの中で、その旗を揚げた船をひたすらに待った。やがて奇蹟か、強風が吹き始め、波浪注意報が発令され、太郎は海を渡った。そして、修学旅行の生徒と騒動を起したばっかりに同じ列車に乗り合わせていたおじいちゃんの目もくらますことができた。やっときた大阪。スケッチの最後の印、トンガリ帽子の通天閣の下に見覚えのあるアパートをみつけた太郎は、父の部屋に馳けこんだが、そこには父の姿は無かった。父の名を叫ぶ太郎の目には涙が溢れた。その肩を壊しい大きな手がしっかりと抱きしめた。やがて都会の人ごみに迷い子になったおじいちゃんたちを迎えにゆく太郎父子の笑顔は底抜けに明るかった。