宵の吉原仲之町。旗本水野十郎左衛門を頭とする白柄組面々と町奴鐘馗の権九郎、唐獅子の五郎兵衛らの意地とハリの大喧嘩が始まる。中でも一段と派手なつくりで大暴れの殿様は、青山播磨…。さて、処は江戸城大広間。若年寄酒井信濃守、大目付稲葉帯刀の前に、水野十郎左衛門は日頃の狼藉、暴挙から閉門蟄居を言い渡されてしまう。これを知った播磨の伯父・春木文左衛門は、大目付稲葉帯刀の娘・千鶴と播磨との縁組のために奔走する。大目付の後盾で、お上の詮議から青山家を守ろうと目論んだためだ。文左衛門は、稲葉親娘を青山家に招き、播磨家に伝わる秘宝の高麗皿十枚を進呈しようとする。腰元のお菊とお浪がこれを客間に運ぶことになるのだが、播磨と恋仲のお菊の心情は穏やかならず、折しも幸福そうに庭を歩む千鶴の姿を目端に入れてしまったため、お菊は皿を手から滑り落とし、四散させてしまう。愛し合う二人ではあったが、播磨自らの手でお菊を成敗することは必定。播磨はお菊を愛したばかりに家を失い、武士を捨て、そして今はその女すらも斬り捨てなければならないのだった。お菊は釣瓶の綱に縋って井戸の中へと落ちて行く。だが、不思議とお菊の死体は浮かび上がらなかった。それからの播磨は、お菊を斬ったことの無分別を嘆き、ただただ酒の力ですべてを忘れ去ろうとしていた。そんなある夜、部屋の隅に髪ふり乱したお菊のまぼろしが悲しく播磨を見上げていた。愕く播磨は寝間着姿で井戸の傍で悶絶するのだった。憔悴と自暴自棄から水茶屋で酒を浴びる播磨。茶汲女・千代の姿がお菊に見え、無理に引き寄せると千代が悲鳴を上げる。この声を聞いて立ち上がったのは、以前に吉原で喧嘩となった町奴の長吉、権九郎、五郎兵衛らであった。乱酔の目にもそれと知った播磨は大刀を抜きざま、白刃の真ん中へと躍り込んでいった。乱酔の身に、一騎当千の町奴の刃は鋭かった…。血に染まり幽鬼の如くなった播磨の耳にはお菊の唄声が聞こえていた。井戸の前で、お菊が手を差し伸べる。そして、そのまぼろしを追うように播磨は自らの血だまりの中にのめり臥すのであった。その後には、井戸の釣瓶がカラカラと回り、鐘の音が無常に響き渡るだけであった。